『世界一シンプルな進化論講義』

●ブルーバッス。進化論の概要を6回の講義でまとめる。まえがきに「講談社のウェブマガジンに連載したものから一般に興味深い文章を選んだ」とある。
・第1講義…進化とはなにか (『種の起源』をめぐる冒険
・第2講義…自然淘汰とはなにか (もっとも曲解されたダーウィンの主張)
・第3講義…さまざまな生物から進化を考える
・第4講義…遺伝子から見た進化論 (ヒトはいかに誕生したのか)
・第5講義…さまざまな生命現象と進化論
・第6講義…ヒトをめぐる進化論
  2025年1月発行なので、進化生物学の現在の到達点の大まかなまとめと考えていい。それでも、一般向けの話で内容に新しい進展は見当たらないので評価は★3つである。
1. 「適応」がない
 私は、「生物は地球の表層環境の進化(変化)に適応して進化してきた」と考えるので、環境への適応が気になる。ところが、この本には「適応」が4ヶ所しか出てこない。
@72頁…生物は環境に適応するように進化する、と一般には考えられている。
A97〜98頁…ウマも草原の生活に適応していったのである。
B141頁…ある程度環境が安定していれば、その環境に適応したまま、ほとんど変化しないことはよくある。
C284頁…それから完全に陸上生活に適応したヒトが進化した。
  生物進化は、体内の進化メカニズムと体外環境への適応で進む。そして、本書は最新の進化生物学の本である。つまり、最新の進化生物学は「外部環境への適応」をほとんど研究対象にしないようだ。筆者の専門が分子古生物学だからメカニズムが中心になるのだろう。一方、私は、進化メカニズムがなんだろうと、最終的に外部環境に適応して進化が進むと考えている。筆者と私の関心がずれている。だから、★3つになる。仕方がない。
2. 表層環境の歴史への無関心
 
研究対象にしないから、表層環境の扱いもぞんざいになる。 
@表層環境に関する具体的記述は、97頁「地球が寒冷化したり乾燥化したりすることによって森林が草原に変わっていった」の1ヶ所だけだ。
A120頁の恐竜から鳥への進化では、「保温仮説」「性的シグナル」「斜面駆け上がり」を考えるが、「鳥がどんな場所に住んでいたか」についての言及はない。
B極め付きは、288頁「たかだか数億年前の地球なら、生物の多様性は今と同じぐらい高かったろう」である。たかだか数億年の間に、大陸の標高が高くなり、海洋の海深が深くなり、表層環境は大きく変化・多様化した。表層環境の多様化に適応して、生物も多様化した。 しかし、著者はそうした表層環境の変化について関心がない。 著者の専門は分子古生物学とある。木を見て森を見ずでは、分子古生物学の発展は暗い。
3. 隕石衝突説と漸進説
  54頁に「隕石衝突説は、地質学や進化論を、そんな漸進説の呪縛から解き放つ役割をはたした」とある。「そうなのか」と思った。そして、漸進説は隕石衝突説で否定されたのだとわかった。また、「漸進説を強調しすぎると、地震や噴火や隕石衝突などの、現在でも起きうる突発的な現象まで否定することになりがちである」とある。しかし、私は地震や噴火で絶滅した生物種を知らない。いたら教えてほしい。
  古生代−中生代境界の「ペルム紀大量絶滅」の原因はシベリア巨大噴火で、中生代−新生代境界の「白亜紀大量絶滅」の原因は隕石衝突だと考えられている。しかし、どちらも間違いである。古生代−中世代境界と中生代−新生代境界には大きな不整合がある。不整合があったから大量絶滅が発見された。そして、巨大噴火や隕石衝突では不整合はできない。不整合の形成を説明できない絶滅原因は間違いである。だから、シベリア巨大噴火説も隕石衝突説も間違いである。というわけで、隕石衝突説は間違いなので、私はダーウィンの漸進説を支持する。
 
進化生物学も古生物学も表損環境の歴史に関心がない。私は、表層環境の歴史を含めなければ、40億年の生物進化を明らかにすることはできないと考える。