『生き物の「居場所」はどう決まるか』

●中公新書。ニッチについての話。まえがきに「本書では、天敵不在空間というニッチとそのにニッチを巡る繁殖干渉という新たな競争の解説を目的としている」とある。
・第1章…「種」とは何か
・第2章…生き物の居場所ニッチ
・第3章…ニッチと種間競争
・第4章…競争は存在しない
・第5章…天敵不在空間というニッチ
・第6章…繁殖干渉という競争
・終章…たどり来し道
 8/3掲載の本が進化学全般の紹介本なので研究現場のリアリティは薄いが、本書は著者の研究を紹介するので、研究現場のリアリティが濃い。ノンフィクションはやはり面白いと思った。「ニッチ」について新たに知ったことが多いので、評価は★5つである。
  以下、新たに知ったことについて4つ紹介する。
1. ニッチ= 「居場所」
 ニッチは、日本語では、「生態的地位」や「隙間」と説明されていて、どうも居心地が悪かった。本書には「居場所」とあって、(そうか)とすっきりした。ニッチは生き物の居場所で、すべての生物は自分の居場所で生きている。「居場所がある・ない」だと自分の話のようで分かりやすい。「生態的地位がある・ない」だと三次元空間を頭に描くようで分かりにくい。
2. 「緑の世界仮説」
 
小学校理科に「光とり競争」という授業プランがあって、その授業では、植物は光にあたりやすいように競争していることを学習する。一般の理解は「生物は食料資源を巡って競争する」である。ところが、生態学では1960年に「緑の世界仮説」が提案され、検証され、現在は定説として確立しているいう。緑の世界仮説は、「草食動物と植食性昆虫には餌の植物を巡っての競争はない」という説である。実際の野外では、上位の肉食動物によって数が制限されて競争するほど高密度にならないからだそうだ。「そうなんだ」である。
3. 「天敵不在空間」
 
競争のない世界でも種が占めるニッチは決まる。「生き物のニッチは、生き物と天敵の相互作用により、天敵からの被害を少しでも軽減できる空間、すなわち天敵不在空間として占められる」そうだ。「そうなんだ」である。
4. 「繁殖干渉」
  繁殖干渉は、高密度で起きる資源競争ではなく、低密度で起きる繁殖干渉で、結果的に一方の種だけが望む資源から競争排除されるのだという。これはななく複雑なので、「そうなのか」と曖昧に理解できた。

 生物は徹底的に合理的世界で生きているようだ。現在の『高校生物基礎』の索引を調べても「ニッチ」や「生態的地位」の用語はない。多様性や生態系は重視されているので、「居場所」の話があってもいいと思うが、どうだろうか。