サメ・エイから脊椎動物最古の性染色体発見
●サメ・エイは軟骨魚類です。マグロやイワシは硬骨魚類です。軟骨魚類のサメ・エイから脊椎動物最古の性染色体が発見されたそうです。発見したのは、総合研究大学院大学 大学院生の丹羽大樹さん、大学教員、水族館職員からなるグループです。
●魚類の進化と性染色体
魚類の進化は、まず顎の無い無顎類が現れ、つぎに顎を持つ顎口類が現われ、顎口類が軟骨魚類と硬骨魚類に分かれ、硬骨魚類はさらに条鰭類と肉鰭類に分かれ、肉鰭類から両生類が誕生します。現在の種数は、無顎類は2種類、軟骨魚類は約1000種で、硬骨魚類は約25,000種です。
記事によると、脊椎動物の性染色体は「哺乳類や鳥類の性染色体は1〜2億年以上前と比較的古い起源を持ち、一対の間で大きさが著しく異なり、大半の魚類(条鰭類)の性染色体ははるかに新しい起源を持ち、一対の間で大きさにあまり差がない」そうです。哺乳類であるヒトの染色体はX染色体と小さなY染色体で大きさが異なります。
今回の研究は、「サメ・エイ類のX染色体は共通の遺伝子セットを保持していて、共通遺伝子の起源は約3億年前で、脊椎動物で最も古い起源を持つ」ことを発見しました。今後は「性を決める仕組みがどう多様化してきたのか、そして、その仕組みがどのような進化の道筋を辿り得るのかを明らかにする」と研究していくようです。
●この研究から考えることむ
私は「性の多様化」より「魚類の多様化」に関心があります。私は、この研究から3つのことを考えます。3つはすべて関連します。
1) 軟骨魚類はなぜ古い性染色体を保持してきたのか。
2) 条鰭類の性染色体は、より後に誕生した哺乳類や鳥類よりなぜ新しいのか。
3) 軟骨魚類は1,000 種で、硬骨魚類が25,000種なのはなぜか。
私は、上の3つはすべて「海洋の進化(歴史)」に適応した結果だと考えます。
1) 軟骨魚類は底生魚である。底生の海水環境はあまり変わらないので、軟骨魚類は古い体の仕組みを保持してきて、古い性染色体を保持してきた。
2) 条鰭類は表層魚である。表層の海水環境は頻繁に変化して、マグロなどの現在の条鰭類は白亜紀以降の表層海水に適応して誕生した。条鰭類(のほとんど)は哺乳類や鳥類より後に誕生したのだから、新しい性染色体を持っていて不思議ではない。
3) 軟骨魚類は海水環境がほぼ一定の底生で進化してきた。従って、進化はDNAの遺伝的浮動などの内部要因で進んだ。そのため、種の多様性には時間がかかる。条鰭類は海水環境の変化が激しい表層で進化してきた。進化は短期間で変化する外部の表層環境に適応して進んだ。そのため、種の多様化が進んだ。
●海洋の進化
生物進化は体内の進化メカニズムと外部環境(の歴史的変化)への適応で進みます。現在は、進化メカニズムの研究だけが進んで、後者の研究はほとんど行われていないように見えます。進化メカニズムの研究で軟骨魚類の1,000 種の多様化を説明できますが、条鰭類の25,000 種の多様化は永遠に説明できません。
進化学者が外部環境への適応にほとんど関心を示さない責任は、間違った地球の歴史を構築してきた地球科学者にあります。私は、既存の地球の歴史が示す表層環境の歴史的変化だと生物進化をほとんど説明できないので、進化学者は外部環境の歴史的変化に関心を持たなくなったと考えています。しかし、
生物学者は自分の研究から、「その地球の歴史は正しいの?」と疑義を唱えることはできます。
海洋環境の歴史的変化では、海洋はいつできたのか、深さと化学組成はどのように変化してきたのかが問題になります。現在の考えは、「海洋は冥王代に誕生して、深さはほとんど同じで、化学組成は嫌気性海水から好気性海水になった」です。私の考えは違います。現在の海洋は10億年前に出現した新しい海です。出現当時の海深はほぼ0 mで、10 億年で現在の4,000 mになりました。海水の化学組成は出現時からずっと好気性です。古い海は現在の大陸の場所にありました。
水深は10 km以上で、現在の「黒海」のように表層だけが好気性海水で、中層以深は硫化水素を含む嫌気性海水でした。古い海に地殻変動が起こって大陸が作られると、体積が増えるので、古い海の海水が新し出現した現在の海洋に流入してきます。こうして、古い海に現在の大陸ができると、古い海の海水がすべて現在の海洋に流入して、海深4,000 mの海洋になりました。
古い海の深層の硫化水素を含む海水が現在の海洋の表層に流入してくると、海洋表層の化学組成が変わります。すると、新しい海水に適応して表層の条鰭類で新しい種が誕生します。底層海水の化学組成はゆっくり変化するので、底生の軟骨魚類は体の仕組みを変えることなく生き続けることができました。
●古い性染色体を持つ硬骨魚類はいるか
私は、軟骨魚類と同じ古い性染色体を持つ硬骨魚類はいると思います。シーラカンスは底生魚で、デボン紀に出現しました。肺は脂肪肺で、浮き袋に変化しないで古い体の仕組みが残っているので、古い性染色体を持っているように思えます。また、宮正樹,他(2013)はマグロの祖先は深海魚だったと報告しているので、そうした深海魚が古い性染色体を持つ可能性は高いと思います。
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